南極点でくらす1年間のきろく

アイスキューブニュートリノ望遠鏡のWinterover(越冬観測員)として、1年間南極点のアムンゼン・スコット基地に滞在しています。家族、友達のみんな、まだ生きてます。

クライストチャーチの植物園

南極大陸をついに出るエントリーです。

マクマード基地では相変わらず天候不順やら機体の故障やらで、クライストチャーチ行きの便がひたすら遅れ、なんやかんや1週間くらい滞在しました。 帰還組の僕たちはマクマードではとくに仕事もなにもないので、昼間はずっとインターネット*1、夕方からはみんなでラウンジでひたすら飲んでいました。ラウンジにはテレビが置いてあって、アメリカ軍用の娯楽テレビプログラムみたいなのが視聴可能で、毎日違う映画が見れます。ただし一日の間は同じのが永遠ループです。暇を持て余す僕たち帰還組の中には「きょうおれ、これでもうジョン・ウィック3周目だよ...」みたいなひともいました。

マクマード基地の周りは、周囲1,000km以上全く何にもない南極点のアムンゼン・スコット基地と違って、とても変化にあふれています。いわゆる南極っぽい動物の観察もできます。

f:id:talking_penguin:20210405061001j:plain
マクマード基地から歩いて30分くらいのとこにあるニュージーランドのスコット基地。

f:id:talking_penguin:20210405060939j:plain
氷河の上に寝そべっているのがseal (アザラシ?)。

f:id:talking_penguin:20210405060941j:plain
ルールがあってあんまり近づいてはいけません。

f:id:talking_penguin:20210405060944j:plain
昔の探検隊にとっては、かんたんに捕まえられる格好の食料だったそうです。

f:id:talking_penguin:20210405060945j:plain
暖かそうにしてますが、一応ここは南極です。

なんやかんやしているうち、いよいよ出発の日になりました。 南極大陸を出るのはかれこれ400日ぶりくらいです。

f:id:talking_penguin:20210405060955j:plain
有名な"Ivan the Terra Bus"と後ろに見えるエレバス山。滑走路脇のここももちろん氷河の上。

f:id:talking_penguin:20210405061405j:plain
脱出用の飛行機がやってきました。

f:id:talking_penguin:20210405061104j:plain
マクマード基地近くの氷河上の滑走路は、南極点の滑走路と違ってスキーがなくても離着陸できます。

f:id:talking_penguin:20210405061106j:plain
本来ならアメリカの輸送機なんですが、もろもろの都合でニュージーランド軍の輸送機を使わせてもらいます。

f:id:talking_penguin:20210109201756j:plain
クライストチャーチの空港に着いたところ。昼は明るく、夜になれば暗くなるというのが当たり前の世界に戻ってきました。

輸送機がクライストチャーチの空港に着陸して、ホテルに着いたのはもう午前3時くらいでした。 ただもう、我慢できずホテルの近くにあるマクドナルドに出かけることにしました。 ここしばらく*2、あぁジャンクフード食いてぇと思っていたからです。

この場所、ホテルというかたくさんのコテージ?からなる宿泊施設なのですが、外に出る門に向かう途中、いろんな部屋から知った顔がぞろぞろと出てきました。 聞いてみると、みんな行き先はマクドナルド。全員考えることは一緒だったようですね。

途中、僕らよりはやくマックに向かっていたと思われるシェフのジークが手ぶらで向こうから帰ってきます。 いわく、あのマックはドライブスルー専用だからダメだった、とのこと。 そんな不条理なことがあってたまるかと、一同憤怒です。 ”ドライブスルーレーンに徒歩で入っていく”とか”Uber使ってドライブスルーだけする”などなど、なんとかならんか作戦会議もしましたが、もう疲れてることもあってみんな諦めることにしました。

部屋に戻ると、ホテルのフロントでもらったリンゴを一つかじってもう寝ます。 きれいにベッドメイキングされた、ふっかふかのベッドに寝るのなんて久しぶりです。

次の日の朝起きて洗面台に向かうと、昨日の夜置きっぱなしにしていた食べ終わったリンゴの芯から、ながーい蟻の行列が壁のタイルの割れ目まで延びています。 そっかもう南極じゃないもんなと、はっとしました。

そこから数日クライストチャーチに滞在しました。 基本的にはウィンターオーバーのみんなと食って飲んでの繰り返しでした。 毎日、夕方までクライストチャーチ市内中心に大きく設けられた植物園のなかでゆっくり二日酔いの身体を休め、また夜は飲みに出かけるといった日々です。

酔っ払ったときの話なんかしてもしょうがないですが、ひとつだけ。 どっかのパブで酔っ払ったニュージーランド人の娘母の二人に、「あんたテンジン・ノルゲイに似てるわね!」と絡まれました。 テンジン・ノルゲイはもちろんニュージーランドの超英雄エドモンド・ヒラリーとともにエベレスト初登頂を果たした、ネパールの偉人です。

f:id:talking_penguin:20210314121557j:plain
左がヒラリー、右がテンジン・ノルゲイ。(photo from here)
まあ十中八九、アジア人だからってだけで言われてるんですが、悪い気はしません。そうか、南極点での一年を終えたおれの顔はテンジン・ノルゲイに似てきたのかと。他のことに話題がうつり、周りが盛り上がるなか、僕はひとりニヤニヤしていました。

f:id:talking_penguin:20210109201855j:plain
とても気持ちいい。

f:id:talking_penguin:20210109201849j:plain
むさぼるように木を眺める。

f:id:talking_penguin:20210109201834j:plain
思わず「あ、ツバメだ。」とひとりごと。言葉って使わないと忘れますね。

これでブログは終わりです。 どうもありがとう。

どこか街でテンジン・ノルゲイに似た人を見つけたら、おそらくそれは僕です。ぜひ声をかけてもらえたらと思います。

f:id:talking_penguin:20200727234354j:plain
ここで一年くらしました。

f:id:talking_penguin:20210109210612j:plain
とてもフォトジェニックな通勤路。

*1:南極点と違い、マクマード基地では24時間インターネットが使える。

*2:数百日くらい