南極点でくらす1年間のきろく

アイスキューブニュートリノ望遠鏡のWinterover(越冬観測員)として、1年間南極点のアムンゼン・スコット基地に滞在しています。家族、友達のみんな、まだ生きてます。

さようなら南極点

南極点に僕がやってきたのは、2019年11月8日。

2020年11月25日、丸一年間と1ヶ月弱を過ごしたこの場所を離れる日がやってきました。

極夜の越冬を含めた一年間の暮らしは、終わってみればなんにも辛くありませんでした。 特に個人的には、夜の冬の生活のほうが昼の夏の生活よりずっと楽しめました。 なんにせ、これまでで一番ストレスフリーな一年間だったと思います。 仕事に関しても検出器が安定して動いてくれたおかげで、稼働率99.88%というとても高い数字を残せました。

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気に食わないことがあっても、二日酔いでも、外に出ればもう一気にどうでも良くなります。

ところで思うに、南極点での越冬より原子力潜水艦の乗組員、火星行きの宇宙飛行士とか、あと刑務所の中とかはもっと大変そうですね。 外に出られないってのは相当キツいんじゃないでしょうか。 というわけで南極点でこの一年訓練したので、宇宙飛行士になる、もしくは檻の中に入る機会が訪れても準備はバッチリです。

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出発の日の南極点の風景。

いよいよ出発の日、初めてここに立った日と同じように、今日の南極点の空は晴れ渡っています*1

最近の気温はだいたいマイナス25度からマイナス30度くらいです。 ここでは相対的にとても暖かい気温なこと、冬の間にイカれた気温に慣れてしまったこともあり、こんな日は外の冷気を気持ちよく感じることができます。ほんとうですよ。

出発の日ですが、そんなに感傷的になることもありません。ここしばらく、「出発の日」をもう何回も何回も経験してきたからです*2

この2週間弱くらいの毎日はこんな感じでした:

  1. 出発日、二日酔いで辛いなか朝早く起きて準備する。
  2. 天気が悪くてフライトがキャンセルされた旨の連絡が入る。
  3. フライトが翌日に再スケジュールされる。
  4. 夜、「あしたが出発だから、今日が最後の夜だね。」とみんなで飲みまくる。
  5. 「寂しくなるなあ、絶対おれの住んでるとこに遊びに来いよ!」みたいな話を深夜までひたすらする。
  6. いいかげんに酔ったみんなで外の天気をみて、明日は飛ぶか飛ばないかみたいな不毛な議論をする。
  7. 1.に戻る。

をもうずっと続けていたので、正直もう南極点いいからさっさと出発させてくれ、という状況になっていました。

ここが嫌になったわけではなくて*3、毎日フライトが直前でキャンセルされる状況がものすごく鬱陶しいからです。それに肝臓も悲鳴をあげています。

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かっこいい。

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バスラーに乗り込む。

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最後に機内から見えたIceCube Laboratoryの様子。

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そしてふざけ始める。

南極点で越冬した日本人では僕の前に1960年と1977年に計2名いらっしゃるだけです。これで僕は(日本人)3人目の南極点野郎になることができました。 自慢です。すごいだろ。

*1:単に晴れてないと飛行機が飛べないってだけ。

*2:あと、近いうちに南極点にまた戻ってくる予定なこともあります。

*3:なるわけない。