南極点でくらす1年間のきろく

アイスキューブニュートリノ望遠鏡のWinterover(越冬観測員)として、1年間南極点のアムンゼン・スコット基地に滞在しています。家族、友達のみんな、まだ生きてます。

南極点

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南極点です。

ずっと夢だったところに来ることができました。

とても嬉しいです。


以下はマクマード基地から、南極点のアムンゼン・スコット基地に至るまでのすごくすごい話です。

今回、マクマード基地からはBasler(バスラー)という小型機で南極点に向かいます。 バスラーは搭乗できるのがとても貴重な機体です。 10年近く南極点に通い続けている、ぼくのボスがずっと乗りたがっているのにいまだ叶っていないくらいです。 乗る人間の観点から、他のアメリカ空軍の大型の輸送機と決定的に違うのは、窓がちゃんとあることです。 その反面、機内が与圧されていない、搭載荷物がものすごく少ない、5時間のフライトなのにトイレがない*1といった不便もあります。

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マクマード基地から滑走路に向かう雪上車のなかのようす。写真中のボトルがピーボトル。

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南極点まで連れて行ってくれるバスラー。かっこよすぎ。

プロペラが回り始めたくらいから、もうあたまの中はお花畑です。 最初の1時間位は大興奮でした。 しばらくして、防寒用のジャケットが暖かすぎるのもあって、寝てしまいました。

どうも途中、雲が出ているせいで高度を上げなければなかったらしく、4,000-5,000mくらいのところを飛んでたらしいです。 目が覚めると機内が与圧されてないためか、なにしろきつかったです。 なんかもう、ほんとマジでけっこうきついんだけど...くらいのタイミングで、事前に配られていた鼻にはめる酸素チューブみたいなのがオンになりました。 貪るように吸い込んだ結果は、しないよりはマシくらいの効果です。

つらい。

高山病予防には水分もたくさん摂らなければいけないのですが、水筒をどっかに置き忘れてきた僕には一滴の水も用意されていません。

つらい。

このときの感覚は、2日くらい徹夜したあとの倦怠感*2が近いような気がします。 景色もそこそこ、もはや必死で深呼吸するサバイバルゲームでした。

つらい....

あと20分で着陸という段になってやっと高度が下がり始めると、少し楽になりました。

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暴力的にシンプルな景色。

ある程度高度が低くなってはじめて、いままで雲海だと勘違いしていたのが、地上であることに気が付きます*3。 見渡す限り地平線の先まで真っ白な氷の大地が、太陽の光を反射して輝く様子には、美しいと思う以上に恐ろしいと感じました。

いよいよ着陸です。

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地面に機体の影が見えるまで近づいてきました。しかし、なんにも無いし真っ平らっすね。

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写真中央の建物が見えた瞬間、声が出ました。

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これが僕とジョンがこれから一年運用する、IceCube Laboratory (ICL)です!

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南極点ついた~♫

ついにやってきました。地球の底です。

着陸すると、これから交代するIceCube Winteroverの二人が出迎えてくれました。 外は-40度近くあります。 体感温度は-55度とかです。

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アムンゼン・スコット基地はほんと南極点のすぐそば。

アムンゼン・スコット基地です。 ここで一年暮らします。

もう文章で説明するのが面倒なので、以下何枚か写真です。

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セレモニアル・ポールという記念碑的な南極点。実際の南極点からは少しずれる。

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南極点まで運んでくれてありがとうバスラー。

*1:あらかじめ搭乗前にピーボトルなるものが配られます。

*2:それに修論/博論/学振/科研費申請の書類が締切当日なのに全然終わってない状況を足した感じ

*3:そもそも途中から景色どころではなくなっていた。