南極点でくらす1年間のきろく

アイスキューブニュートリノ望遠鏡のWinterover(越冬観測員)として、1年間南極点のアムンゼン・スコット基地に滞在しています。家族、友達のみんな、まだ生きてます。

アムンゼン日誌

アムンゼン・スコット基地の図書室には、凄まじい量の南極大陸探検の本や資料があります。 南極点到達の歴史を学ぶのにこれ以上の場所はありません。

まずは第一人者であるアムンゼンの本を読むことにしました。 沢山ある中から、事実の羅列でもいいから、第三者の解釈が挟まってないであろうアムンゼンの日誌を読んでみることにしました。

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アムンゼンの日誌。

まだぜんぜん南極大陸にたどり着いてなのですが、なかなか強烈です。

以下の話は現代的な感覚とは合いませんが、読んでいてあまりに衝撃的だったので紹介します。 100年前の人の揚げ足を取りたいわけではなくて、ひとつのクレイジーな話としてです。ねんのため。

フラム号には、アムンゼンを始めとする乗組員20人に加えて、犬が100匹くらいのっています。 もちろん南極大陸で使うためです。

日誌はほとんど、風向きとエンジンの調子と、あとは主に犬の話です。 特に犬の話が面白いです。 ”ある日、犬が自分でしたウンコ食ってるのを発見した。驚いて船員に話したところ誰もが聞いたことがないという。犬にはまったく観察すべき点がとても多い”。とか。 ”病気で死にかけてて食事を受け付けない犬が、ある船員のウンコ食ったら劇的に復活した”。とかそんな話ばっかりです。 ほんとですよ。

本題はここからです。 ノルウェーからの長い航海のなかでは、子犬が生まれることが多々あるのですが、そのたびに壮絶です。

生まれたばかりの子犬は雄と雌*1に分けられます。 最初は読み間違えたのかと何回か見直したのですが、なんとメスの子犬はすぐに甲板から海に放り投げられます。 もしくはマストに縛りつけられてアホウドリ捕まえるエサにされます*2

なんていうか....むちゃくちゃしますね。おいおいアムンゼン。 ちなみに聞いた話では、雄の犬もかわいがってもらった挙げ句、結果的に相当にアレな結末を迎えるはず。

読み進めて、1910年の12月にたどり着きました。 日誌によると、アムンゼン一行はクリスマスパーティーを存分に楽しんだようです。 船全体が優しい気持ちに満ちあふれていたのでしょうか、数日たった12月28日に驚くべきことがおきました。 なんと当日生まれたメスの子犬が生かされることになったのです。 以下、"The Roald Amundsen Diaries The South Pole Expedition 1910-12" (Nasjonalbiblioteket)から当日の日誌の引用です。

December 28 - Wednesday

Fine weather. Partly clear with SSW wind. Sail and engine, six knots. We got quickly forward now. We hope to see the ice in a few days. "Lucy" had pups today. We let her keep a daughter. The rest went to the fishes. This is the first lady who was allowed to live.

よかった、よかった。

あれ、”The rest went to the fishes.”って......

*1:アムンゼンの言葉を借りるなら、”弱い方の性別”。おいおい。

*2:ここは英語がよくわからなかったので怪しい。