南極点でくらす1年間のきろく

アイスキューブニュートリノ望遠鏡のWinterover(越冬観測員)として、1年間南極点のアムンゼン・スコット基地に滞在しています。家族、友達のみんな、まだ生きてます。

南極点に荷物をおくる

IceCube実験は、南極点という最寄りの駅まで4,000 kmある*1、極めてアクセスの悪い場所に検出器を建設して測定を行っています*2。 現地までの物資輸送のロジスティクスは、実験を成功させる、また運用していくための重要な要素です。

ここ数日でサイエンス・カーゴと呼ばれる、今シーズンに南極点に送る観測機器や測定システムの整備用備品用のクレート(パレット?)の準備をしました。 カーゴはアメリカから出荷されたのち、南極大陸沿岸のマクマード基地まで海上を砕氷船で運ばれ、そこから南極点のアムンゼン・スコット基地までは軍用機で空輸です。 詳しいことは聞いてないですが、間違いなくお金がとてもかかるのでしょう。 これでもかというくらい、キッチキチにカーゴに荷物を詰めていきます。

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研究者が頭を振り絞っていかにキチキチに荷物を詰めるか議論します。誰かがテトリスの音楽を流し始めました。

この日の朝、南極への発送元になるマディソン郊外の研究施設まで、大学から物資を届けるのに使うトラックを前にして、誰がどこに座るかという話をしました。 というより荷台に座ってもいいのかという話です。 言葉や人種が違っても考えることはひとつ、人はだれでもトラックの荷台に乗りたいのです。 でも、アメリカでも荷台に乗るのは違法らしいです*3

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"わーアメリカみたい"とあやうく言うところでしたが、さすがにアホっぽいと思い心にしまっておきました。見てください、アメリカみたいです。

気持ちの良い天気のなか、20キロはありそうなサーバーを数十台トラックに載せたりおろしたりします。 やりがいのある作業で充実していましたが、まったくくたびれました。 よく考えると、荷物を送るということは、同じ作業をもう一度南極点(極寒&標高~3000m)でするわけです。 ゾッとします。

サイエンス・カーゴですが、名前の通り入れるのは研究に直接的に関係するもののみです。 しかし、Winteroverに限っては、個人用の荷物をサイエンス・カーゴに入れることが許されています。 特に重量制限などはなくて、常識の範囲で好きなだけ送れるとのことです。

アメリカに来る前にカナダ人の悪い友達からそそのかされた当初のプランは、”日本酒を大量に持ち込んで人気者になる、ないしひと商売する”ことでした。 基地では外国人は少数ですし、まして日本人はいないわけです。 エキゾチックさを活かした良いアイデアではないでしょうか。

うすうすわかってはいましたが、サイエンス・カーゴにアルコールを入れるのはダメで、もちろん基地で勝手に商売するのも完全にアウトでした*4

結局のところ、本、日用雑貨やカメラの三脚など重くてかさばるものを入れることにしました。 なんか普通ですね。 ちなみにカーゴは超極寒の地で外気にさらされるため、コンタクトレンズとかを入れると大変なことになるようです。 カーゴに入れた僕の大量のリステリンはバキバキに凍るのが確定です。

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できるだけ凍らせないでねマーク

一度凍ったリステリンは、果たして溶けたのち、あの刺激をキープしてくれるんでしょうか。

*1:駅から徒歩5万分です

*2:もちろんそこが観測上都合が良いからです。

*3:今度ばかりはアメリカに裏切られました。

*4:むかしむかし、氷河切削作業員(ドリラー)向けの、”ドリラー用のジュース”というラベルが貼ってある謎の箱があったとかなかったとか...