南極点でくらす1年間のきろく

アイスキューブニュートリノ望遠鏡のWinterover(越冬観測員)として、1年間南極点のアムンゼン・スコット基地に滞在しています。家族、友達のみんな、まだ生きてます。

そろそろ終わるトレーニング

10月になりました。

マディソンでのトレーニングもいよいよ大詰めといった感じです。

きょうまでやってきたトレーニングの内容は、Winteroverとしての任務である、”南極点にある世界最大のニュートリノ検出器IceCubeを24時間365日動かし続ける”ために検出器や測定システムを理解すること、また問題が起きたときの対処を知ることです。

これでは何がどう大変なのか、あまり伝わらないですね。 なので分野外から見たときに、検出器というか、エンジニアリングとしてIceCubeの何が特徴なのかすこし考えてみました。 とてもすごいんですよ。

  • 南極点直下の氷河の1kmもの深さのところに、1 km3の空間を使って配置された5,000機の超高感度光センサーからの信号を高速で常に読み出す
  • 読み出しのための測定システムは、様々な機能に特化した数百台のサーバーで構築され、取得したデータを大量のコンピューターを使って並列に即座に解析
    • 毎秒3,000回の速度でニュートリノ候補事象を観測可能
    • 取得するデータは毎日1,000 GBの規模で、そのうち10%の重要なデータを北半球に衛星で送信
  • 途切れることなく常に観測するため、システムとしてハードウェア、ソフトウェアの両面から高い冗長性を確保
    • 大発見につながるような、超新星爆発で生成されたニュートリノや、遠くの銀河で生まれた高エネルギーニュートリノはいつ飛んでくるかわからないため
    • 実際に、99.8%の稼働率を実現
  • 検出器の建設にかかった費用は300億円
  • そもそも観測してるのが、南極点というクレイジーもいいとこな場所

特に最後の点が、実験を運用する上でなにしろチャレンジングです。 南極点は1年のほとんどが完全に誰も来れない、超隔絶された環境です。 ある意味、(いざとなればわりとすぐ補給船を送ることが可能な)宇宙ステーションよりもアクセスが困難な場所です。

ロジスティクス的な観点以外、例えば通信も衛星回線に依存しているため極めて限定的です。 もし、通信系に影響を及ぼすような問題が検出器に起きると、現地のWinteroverの2人だけですべて判断・対処しなくてはなりません。

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Image credit: John Kelly, IceCube/NSF ここが職場になります。

トレーニングでは毎日、ジョンと一緒に、測定システムを構成する各要素のエキスパートから直々にレクチャーを受けています。 マディソンのウィスコンシン大学内に”South Pole Test System”と呼ばれる、南極点のものをコピーした全く同じ構成のシステムがあるので、これを使って実践的な訓練をすることができます。 よくあるのは、わざとシステムに障害を起こした上で、”はい、じゃあ君らでどこが問題か突き止めて直してね”みたいなパターンのやつですね。

このようにして検出器の運用のためのすべてを、2-3ヶ月かけて頭に叩き込んできています。 いままでブラックボックスだったところを、少しずつ 自分のものにしていくのは面白いのですが、覚えることが控えめにいってアホほどあります。

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Image credit: Martin Wolf, IceCube/NSF この建物全部がIceCubeの測定システムです。検出器自体は氷の下に埋まってます。

まあトレーニングは大変ですが、ここで働くことができると思えばがんばれます。