太陽の軌跡
緯度が高い地域では白夜、またその逆の極夜が存在します。 高緯度になればなるほど、その影響は大きくなります。 ましてここは南緯90度、南極点に位置するアムンゼン・スコット基地です。 地球上で白夜、極夜が最も極端に現れるところです。 なんと、日の入り/日の出は一年にそれぞれ1回です。
例として、僕は南極点に2019年の11月はじめにやって来ました。それから数ヶ月がたった今日まで、太陽は一度も沈んでいません。
太陽が一日のあいだどのように空に軌跡を描くか気になりました。 そのへんに転がってたリンゴや、自分の両手をくるくる回しながら地球と太陽の位置関係について考えてみました。 考えた末の結論は、
- 一日のうち、太陽の高度(仰角)は目で見えるレベルではほとんど変わらない。
- 夏至の時を最大高度(仰角)として、少しづつ一日に空に描く円の高度が低くなっていって、最終的には地平線に沈む。
- 日の入りは数日をかけたゆっくりしたものになる。そのあと半年ずっと夜。
調べたわけじゃないので信じないでください。天文学は分野外です。星座はオリオン座しか指差せません。 でもジョンもこれで合ってるだろう、って言ってたのでたぶん間違ってないと思います。
気になるので、自分で直接調べることにしました。
IceCube Laboratory (ICL)の屋上にカメラを設置して、太陽を定点観測します。 一定時間ごとに撮影して、太陽の軌跡が一発でわかるような多重露光風の写真を目指します。 撮影後の写真の処理もどうすればいいか、なんとなくイメージできています。 雲量の少ない日を選べば背景がほとんど変わらないだろうから、複数の写真を後で重ね合わせるのも簡単そうです。 つまるとこ長時間、一定間隔の撮影が面倒なだけなはずです。 ですが便利なことに、ぼくのカメラにはタイムラプス機能があって一定時間ごとに勝手に撮影してくるモードがあります*1。
こう考えると、割と簡単にできそうだな、というのが最初の印象でした。
残念なことに、そううまくはいきません。失敗を重ねました。理由は今更ですが、寒すぎることです。 最近どんどん寒くなってきていて、体感温度はマイナス40度以下です。 よく低温下で問題とされるバッテリーに関しては、僕のカメラの場合これくらいの温度ではちょっと気をつければ全然平気です*2。 問題はカメラの各種高級機能です。 あまりに寒いと、バッテリーが死ぬのより早く各機能がさっさと死んでいきます。 タイムラプス機能はその筆頭です。バッテリーが残っていても、カメラが勝手に撮影を止めてしまいます。 時間をかけてカメラをセットして、数時間後に戻ってきてチェックしてみたら”数枚だけとってあとはお休みしてました”みたいなことが続いて、カメラ張り飛ばしてやろうかと何度となく思いました。でもカメラすごく高かったのでぐっと我慢です。 そもそも動作保証温度の範囲から大幅に離れたとこで使っているので、まあ文句は言えません*3。
カメラに温かいジャケットを着せてあげる、とか色々やってみましたがダメでした。 もういいかげん頭にきたので、カメラのタイムラプス機能に頼るのはやめました。 数時間に渡って20分ごとにICLの屋上に出向いてシャッターを押して屋内に戻る、というのを繰り返しました。 人力タイムラプスです。
深夜12時前後、計4時間の撮影です。わかっていただけたでしょうか、ずっーと明るいです。
明確に弧を描いているのはなぜなんでしょうか*4。 予想では真横に一直線に並ぶと思っていたのですが。 12時ちょうどくらいに底を打っているように見えるので、なにか天文学な理由があるのかなと考えました。 でも12時(ニュージーランド時間)ちょうど、に特別な意味があるはずはありません。 経度が定義できない南極点においては、多数あるタイムゾーンのなかからニュージーランド時間を物理的な理由なく選んでいるだけです。 たぶん、たまたまフレームの真ん中が12時だっただけだと思います。 弧を描いているのは、きっとなんかしらの光学的な効果でそう見えるだけなんでしょう。
まあきれいな写真が撮れたので、難しい話は放っておくことにします。